フード・マイレージ セミナーで講師を担当して頂いているのは、北陸農政局企画調整室 室長の中田哲也さんです。 農林水産政策研究所時代にフード・マイレージの研究に携わり、フード・マイレージにおいては第一人者と言える方です。 先日、無事にフード・マイレージ セミナー第1期を終えた中田哲也さんにお話を伺いました。
フード・マイレージ研究に携わった経緯を教えて下さい。
私は1982年に農林水産省に行政職として入省した、つまり普通の役人です。
その間、2001年4月から2年弱の間、農林水産省の付属機関である農林水産政策研究所(以下、政策研)に出向のようなかたちで異動しました。
その時の所長である篠原孝氏(現衆議院議員)が、もともと環境問題に対する造詣が深く、イギリスのフードマイルズ運動※にも詳しくて、
彼の指導の下に輸入食料のフード・マイレージの研究に携わったのが最初です。
なお、「フード・マイレージ」という言葉も篠原氏の造語です。
※フードマイルズ運動とは・・・
1994年にイギリスの消費者運動家ティム・ラング氏によって提唱された「食料の生産地から食卓までの距離に着目し、なるべく近くで取れたものを食べよう」という消費運動です。
フード・マイレージ研究のご苦労などありましたか?
何しろ初めての試みであり、多くの方の協力も得ながらも、結局は1人で計算方法を考えたり実際に計算をしなければならず、
エクセルのマクロを覚えたり、労力的にはなかなか大変でした。
データベースの購入などの面で、政策研の予算(むろん税金です。)もだいぶ使わせて頂きました。
各国のフード・マイレージを計測してみての感想は?
日本は人口も経済も大国ですし、食料自給率も低いことから、ひょっとしたら日本の輸入食料のフード・マイレージは世界一大きいのではないか、という予感はありました。
ところが実際に計算してみると、アメリカや韓国の3倍以上という突出した数字になったことには、正直、驚きました。
計算間違いではないかと何度も確かめたほどです。
本当に日本のフード・マイレージは各国に比べて突出してますよね。
この日本のフード・マイレージを下げるには、どうしたら良いのでしょうか。
まずは身近なところから、できることから。例えばなるべく近くで取れたものを食べる。
まず大事なことは、自分が食べているものが、どこでどのような人たちに、どのように作られているかについて想像力を働かせることです。
消費者一人ひとりが自分の食にまず関心を持っていただくことが、栄養バランスの改善にも、自給率の向上にも、フード・マイレージの削減にもつながると思います。
東京に先立って、熊本でフード・マイレージ実践講座が開催されましたね。
私は2005年4月から3年間、九州農政局消費生活課長として食育を担当しました。
様々な方達と活動を進める中で、フード・マイレージについても紹介する機会があり、
そのご縁で、ぜひ消費者の立場からフード・マイレージを計算するスキルを身につけ実践し、
地域に広めていける人材を育成するための実践講座を開催したいとのお話しがあったものです。
熊本での実践講座の事務局の北亜続子さんは、食育関係の様々なイベント等で大変お世話になった方のひとりです。
東京と熊本、講座の雰囲気はいかがでしたか?
熊本の講座はほとんど私も顔見知りの方達であり、皆さん真剣ながらも和気あいあいと進めることができました。
東京の方は、企業の方等も入っておられ、少し別の緊張感はありました。
いずれにしても皆さん真剣に取り組んでいただき、私も大変楽しかったです。
第一回実践講座が先日終了しましたが、講座の感想をお聞かせ下さい。
フード・マイレージの考え方、計算方法、限界など、私の知識は全て伝えることができたと思っています。
地域における皆さんのこれからの活動に期待したいと思います。
リーフプロジェクトとしては今後もフード・マイレージ セミナーを開催していきたいと考えているのですが、
特にどんな方へ伝えたい・理解してほしいでしょうか。
とにかく一般消費者、または普通の人たちですね。「消費者」という言葉は、あまり好きではありませんが、私も普通の消費者のひとりです。
豊かな食の実現のためには、行政や生産者、事業者の取組も不可欠ですが、結局は消費者一人ひとりの選択にかかっていると思います。
今後、フード・マイレージはどう捉えられていくでしょうか?
農林水産省では、農林水産分野における二酸化炭素排出量の「見える化」に取り組んでいます。
その内容はカーボン・フットプリントが主流となっており、フード・マイレージについては、輸送段階しか対象としていないこと、
輸送手段によって環境負荷が大きく異なることから、慎重に取り扱うことと整理されています。
しかしながら、カーボン・フットプリントはその概念、計算方法とも複雑で、消費者には直ちに理解しがたい面があります。
一方でフード・マイレージは考え方も簡単で、食材の使用量と産地さえ分かれば誰にでも簡単に計算でき、
かつ、消費者にとっても地産地消といった具体的な実践に結びつけやすいというメリットもあります。
先に述べたフード・マイレージの限界は念頭に置きつつも、身近な毎日の「食」と現下の人類的課題である「地球環境問題」を結びつけて考えるヒントとなる指標として、
大いに活用していただければと考えています。
最後にメッセージをお願いします。
フード・マイレージ セミナーを修了された「フード・マイレージ ディレクター」の皆さんの多くは、これまでも様々な分野で活動されてきた方々です。
その方々が、フード・マイレージという新しい(強力な?)道具を手に入れられ、それぞれの地域や職場等において、ますます活躍の幅を広げて行かれることを期待しています。
プランナーの皆さんは、日本の食をより豊かなものに変えていく力をお持ちの方々であると確信しています。
ありがとうございました。
中田哲也氏
1960年(昭35年)徳島県生まれ。1982年岡山大卒、農林水産省入省。
2001年4月より2年間、農林水産政策研究所でフード・マイレージの研究を手がける。
その後、関東農政局・九州農政局を経て、2009年3月現在は北陸農政局企画調整室 室長。
著書
「フードマイレージ ―あなたの食が地球を変える―」(日本評論社)
「食べ方で地球が変わる」(創森社、共著)
「たべものがたり −食と環境 7の話」(ダイヤモンド社、共著)
2009年3月
インタビュー・文 : リーフプロジェクト 村田香織